【相続】慰謝料請求権は、相続できるのか?
DATE25.04.23
こんにちは、ファイナンシャル・プランナーの藤原です。
今回のテーマは、「慰謝料請求権」です。
目に見えない財産
亡くなった人が所有していた財産は、その相続人に引き継がれます。
現金、土地、建物、車、株式、貴金属・・・財産と聞いて、パッと頭に思い浮かぶのは、このあたりでしょうか?
これらは目に見えてイメージもしやすく、分かりやすいですよね。しかし、相続財産には、そのような目に見える財産だけでなく、「目に見えない財産」もあるわけです。
たとえば、亡くなった人が友人に貸していた100万円は、その相続人が引き継いで請求することができます。すなわち、貸付金や売掛金など、人に対する請求権である「債権」も、亡くなった人の持っていた権利として相続財産となるのです。
権利は目に見えませんが、金銭的価値があれば、それは立派な相続財産なのです。ですので、借地権や借家権なども、原則として相続財産となります。
しかし、年金受給権や生活保護受給権、扶養請求権(親族に対して扶養料を請求する権利)など、「その人だからこそ、与えられている権利」は相続財産とはならず、相続の対象とはなりません。そのような権利を、一身専属権と言います。
慰謝料請求権は、相続財産なのか?
さて、ここでいよいよ、今回のテーマである「慰謝料請求権」です。
まず、慰謝料とは「不法行為によって、精神的・肉体的な苦痛を被ったときに、加害者に請求できるもの」です。
ですので、慰謝料請求権とは「その苦痛を受けた本人だからこそ請求できる権利」であり、それはすなわち、前述の一身専属権に属する(一身専属権としての性質を有する)と解釈することができます。
ということは、原則としては、慰謝料請求権は相続財産ではない、ということになりますね。
しかし、被害者が生前に慰謝料請求の意思を示した場合には、慰謝料請求権は相続財産として、相続の対象となるのです。
交通事故で死亡したときの、慰謝料
たとえば交通事故で大ケガをした人が、「加害者に慰謝料を請求する」との意思を示して、そのまま死亡したとしましょう。この場合、死亡した人の相続人は、その慰謝料請求権を、相続により引き継ぐことができます。
しかし、交通事故で即死、もしくは重体や意識不明などのまま死亡するなど、慰謝料請求の意思表示ができないまま死亡することもあるでしょう。
この場合、「慰謝料請求の意思表示がなかったので、慰謝料請求権は相続財産ではない(相続できない)」とすると、(意思表示ができる程度の)ケガをしたときと比べて、あまりにも不公平です。
そこで現在では、生前に慰謝料請求の意思表示がなくても、不法行為に基づく慰謝料請求権は相続財産として相続の対象になる、と認められているのです(※)。
※最高裁判所昭和42年11月1日判決
2つの慰謝料に注意
なお、交通事故による慰謝料には「死亡した被害者本人に対する慰謝料」だけでなく、「その遺族に対する慰謝料」もあります。被害者が亡くなることで、その遺族も精神的に苦痛を被るわけですから、その事情・状況によっては遺族自身も慰謝料を請求できることがあるのです。
もっとも、遺族に対する慰謝料は相続するまでもなく、元々遺族固有の権利ですから、相続財産ではありません。今回コラムで取り上げた慰謝料請求権とは、「死亡した被害者本人に対する」慰謝料の請求権のことなので、そこは気を付けてください。
ファイナンシャル・プランナー
藤原 久敏