【企業経営】生産性のジレンマ(その2)
DATE24.11.01
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
前回、「ドミナントデザイン(市場において支配的・標準的なデザイン)が確立すると、企業側の関心は大量生産による低コスト化のためのプロセス・イノベーションにシフトし、プロダクト・イノベーションは行われなくなること」を指摘しました(生産性のジレンマ)。
市場は寡占化され、各企業はドミナントデザインの下で最適な生産・組織体制を確立します。
■もうひとつの生産性のジレンマとは?
さて、生産性のジレンマは、さらにもう1つのジレンマを生み出すことになります。それは確立された生産・組織体制が技術の世代交代期の足かせとなるというジレンマです。
インクリメンタル・イノベーションとラディカル・イノベーション
インクリメンタル・イノベーション(持続的イノベーション)とは、既存の技術体系の枠組み内でのイノベーションのことですが、要は改善レベルと考えてもらえればよいです。
一方、ラディカル・イノベーション(破壊的イノベーション)とは、既存の技術体系の枠組みを超えた(既存の技術体系を破壊してしまうような)イノベーションのことです。
たとえばビデオテープに対してのDVD、スチールカメラ(フィルムカメラ)に対してのデジタルカメラといった、旧世代技術と新世代技術の関係を想像するとよいでしょう。2つの技術の関係は非連続の関係にあり(旧世代技術の延長に新世代技術があるわけではない)、新世代技術は旧世代技術を代替してしまうものなのでラディカル・イノベーションということになります。
リーダー企業はその地位ゆえに没落する?
ドミナントデザインの下で大量生産・大量販売のための生産・組織体制を確立して生き残った企業は、そのドミナントデザインが続く限りにおいては圧倒的な競争優位を持つことになります。
しかしながら既存の技術とは非連続な関係にある次世代技術(破壊的技術)が登場し、それが進化すると様相は一転し、それまでの主要企業は没落することになります。
破壊的技術はもっぱらアウトサイダーによってもたらされます。それまでの主要企業は、莫大な投資・労力を費やして既存の技術(やがて旧世代化する)に合った生産・組織体制を確立しています。よって、それを無駄にしてしまうような次世代技術(破壊的技術)にはどうしても消極的になります。
つまり、確立した生産・組織体制が足かせとなってしまうのです。一方、新規参入者はそのような足かせはなく、次の市場での支配的な地位を目指してひたすら次世代技術の進化・普及に邁進します。
また、本当に破壊的技術が既存技術を代替してしまうものなのかの見極めが難しいことも、それまでの主要企業が破壊的技術に取り組むことを消極的にさせます。破壊的技術のほとんどが失敗に終わりますから、事業としてのリスクは極めて高いです。破壊的技術は、既存技術を駆逐して初めて破壊的技術であったことが分かるのです。
このような背景から、技術の世代交代期に主要なプレイヤーが一気に入れ替わってしまうことがしばしば見られます。複数の技術の世代交代となると、それを上手く泳ぎきれる企業はほとんどないと言えるでしょう。
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元