【企業経営】生産性のジレンマ(その1)
DATE24.10.02
皆様、こんにちは。資格の学校TACで企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
画期的な製品が登場した当初は製品イノベーションに関する取り組みが活発に行われますが、やがて沈静化することが一般的です。これについて扱ったものに、生産性のジレンマがあります。今回は、2回に分けて生産性のジレンマについてご説明します。
■生産性のジレンマとは?
生産性のジレンマとは、画期的な製品が登場した当初はプロダクト・イノベーション(製品イノベーション)に関する取り組みが活発に行われますが、やがて企業側の関心はプロセス・イノベーション(販売方法や生産方法など業務プロセスのイノベーション)にシフトし、プロダクト・イノベーションは沈静化してしまうというものです。1970年代にアッターバックとウィリアム・アバナシーによって発表されたものです。
生産性のジレンマに至る過程は、次のとおりです。
<流動期>
① 画期的な製品が登場すると、各社が知恵を凝らして様々なタイプの製品開発を行います。多種多様な企業が有機的な組織の下でそれぞれプロダクト・イノベーションを行います。
<移行期>
② やがて市場において支配的・標準的な製品デザイン(ドミナントデザイン)が決まると、各社の関心は製品デザインでの競争から低コスト化競争に移ります。
③ 各社は大規模な専用ラインを導入し、大量生産体制を構築します。その過程で生産工程の分業化、作業の標準化、専用機械化が進み、低コストのための生産体制が構築されていきます。あわせてそれに見合う組織の構造も確立されていきます。
④ この過程で大規模な設備投資を行えない企業は競争から脱落し、企業数は減少に転じます。
<固定期>
⑤ プロダクト・イノベーションは抑制され、もはや大幅な製品デザインや機能の変更は見られなくなり、修正・改善レベルに留まるようになります。大幅な製品デザインや機能の変更を行ってしまうと、それまで多額の投資や労力をかけて構築した生産体制が無駄となってしまうからです。
⑥ プロセス・イノベーションが進み、分業化と専用ライン化による大量生産体制が確立します。
⑦ 小規模の競争力に劣る企業が撤退したり買収されたりすることを通じて業界の寡占化(少数の企業が市場シェアの大部分を抑えてしまっている状態)が進みます。
たとえば自動車は、19世紀末には3輪車もあれば4輪車もあり、エンジンが前に付いていたり後ろに付いていたり、動力源が蒸気であったり電気であったりガソリンであったりと様々なデザインがあったわけですが、1908年のT型フォードの販売の頃にはおおむね現在のガソリン自動車の原型(ドミナントデザイン)が確立され、その後、20世紀を通じてそれが継続されました。
もちろんある程度の技術革新は進むわけですが、自動車誕生当初よりも抑制的であり、低コスト化の重要度の比重が相対的に高まったことは事実でしょう。
このような傾向は完成品市場では広範に見られます。
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元