【企業経営】男女間の収入格差の要因は何?(その2)
DATE24.06.10
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
前回に引き続き、男女間の収入格差について考えてみたいと思います。
■「貪欲な仕事」が男女間の収入格差を生む
前回の内容について、少し振り返っておきます。昨年、ノーベル経済学賞を受賞したゴールディン教授の研究によれば、男女で収入格差が生じるのは、社会的な構造要因、すなわち「育児」と「貪欲な仕事」の存在であるといいます。その理由は、以下のとおりです。
・男性は、家庭を含むプライベートより、業務への集中が優先され、労働の柔軟性に欠ける「貪欲な仕事」に専念します。
・「貪欲な仕事」には、「時間のプレッシャーがある」「他との調整の必要性が高い」「人間関係の構築の必要性が高い」「個人で意思決定できない」という特徴があります。
・このような仕事は、長時間働くほうが生産性が高くなり、昇進や昇給に結びつきます。
・女性の場合は、育児のために、「貪欲な仕事」から途中離脱する可能性が高く、男性と比べて昇進や昇給で遅れが生じます。
■単に女性管理職の数を増やせばいいわけではない
日本の場合、「女性管理職比率が12.9%と低い。企業価値を高めるためには女性の管理職を増やすべきだ」といった主張がよく見られます。
ノルウェーでは、女性取締役比率が2008年までに40%に満たない企業を解散させるという法律が可決されました。この状況を調査した南カリフォルニア大学のケネス・アハーンによれば、「女性取締役比率の上昇は企業価値を低下させた(具体的には、女性取締役を10%増加させた場合、企業価値は12.4%低下した)」といいます。
これは、急場しのぎのために適性のない女性も取締役に引き上げたことによるものです。単に数を増やせばいいのではなく、ゴールディン教授が指摘する社会的構造要因を解消することが求められるのです。
■格差要因は取り除かれつつあるが
さて、日本においても、男女の収入格差の要因は徐々に解消しつつあります。良いか悪いかは別として、オンラインでのリモートワークにより、他との調整や人間関係が省略化され、仕事のモジュール化が進んでいます。働き方改革以降、長時間労働は忌避され、男性の育児参加が求められています。これは「貪欲な仕事」の特徴が希薄化することを意味します。
しかしながら収入格差解消にはまだ時間がかかるでしょう。ソニー生命の「女性の活躍に関する意識調査2022」によれば、管理職への打診があっても「受けてみたいと思わない」有職女性の割合は55%に及び、「受けてみたい(20%)」を大きく上回っています。女性に管理職への打診を受けてみたいと思わせるためには、時間をかけた社会環境の整備が求められるでしょう。
私は優秀な女性の登用にまったく異存はありませんが、この調査結果を見ても、単なる数合わせの議論では、本質を見誤ることになるでしょう。
〈参考〉中室牧子,津川友介『「原因と結果」の経済学』ダイヤモンド社
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元