【年金】社会保障協定について
DATE24.05.13
グローバル化が進む現在、日本の方が海外で働くことや、海外の方が日本に来て日本の企業で働くことも多くなってきています。日本の方が海外転勤により一時的にアメリカで働くことになった場合、年金制度をはじめとした社会保障制度は、どの国で適用されるのでしょうか。
基本的には住んでいる国(居住地)の年金制度をはじめとした社会保障制度に加入しなければなりません。そうすると、海外転勤になった方は、日本の年金制度に加入しながら、赴任先の国の年金制度にも加入する義務が生じます。その場合、保険料も二重に負担する必要がでてきます。
そこで、「二重加入の防止」や「保険料掛け捨て防止のため年金加入期間の通算制度を設けること」を目的として、国ごとに「社会保障協定」を締結しています。
今回は、社会保障協定の概要を簡単にみていきたいと思います。
●二重加入の防止とは
これは、社会保障協定の締結国に赴任する場合、日本の年金制度に加入している人は赴任先の国の年金制度への加入義務が免除されるというものです。
たとえば、日本企業に在籍している方が、社会保障協定締結国のアメリカで3年間一時的に働くことになった場合、日本企業から引き続き給与が出ているときは、基本的には日本の厚生年金保険に加入しなければなりません。
このようなケースの場合、アメリカの年金制度への加入義務は発生するのでしょうか…。
日本で厚生年金保険に加入していて、5年以内の一時派遣の場合、アメリカの年金制度への加入義務は免除されます。これが、社会保障協定の効果です。
あくまで二重加入防止となるのは一時的な派遣(通常5年以内)の場合とされています。
5年を超えて赴任する場合は、赴任先の国の年金制度への加入が必要となります。
実際に加入義務が免除されるためには、日本の厚生年金保険が適用されているという「適用証明書」が必要です。これは日本の年金事務所に申請して交付してもらいます。
●保険料掛け捨て防止のための年金加入期間の通算制度とは
日本の老齢年金を受給するためには、受給資格期間が10年必要です。また、海外の年金制度においても、国ごとに将来老齢年金を受け取るために必要な加入期間が定められています。
海外を転々としている方の場合、1つの国の加入期間だけで、年金を受け取るために必要な受給資格期間が満たせない場合があります。加入期間が短くて年金が受け取れない場合、保険料が掛け捨てになってしまうこともあります。
そこで、社会保障協定の締結国で、「年金加入期間を通算することができる」と協定している国の加入期間については、日本の加入期間と協定相手国の加入期間を通算することができることになっています。
たとえば、過去にアメリカの年金制度に7年間加入していたことがあり、それ以外の期間はすべて日本の年金制度に加入していたという方がいるとします。
アメリカの年金をもらうためには原則アメリカの年金制度に10年以上加入していることが必要であり、7年間では足りません。
そこで、社会保障協定によって、アメリカ年金を受け取るために、日本の年金加入期間を通算することができるのです。これにより、アメリカの老齢年金も7年間加入した分については、受け取ることができるようになります。
なお、イギリス、韓国、中国、イタリアの社会保障協定には、加入期間の通算制度はありませんのでご注意ください。
社会保障協定は、現在23カ国と締結しています。令和6年4月1日から新たにイタリアとの社会保障協定が発効されています。
社会保障協定の締結国(令和6年4月1日現在)
ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、
チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、
フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア
社会保障協定の協定内容は、国別に異なります。海外赴任の機会がある場合、社会保障協定についてもよく理解しておきましょう。
社会保険労務士
後藤 朱