【企業経営】既存の分野を深堀しつつ、同時に新しい分野を探索する
DATE23.06.02
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
今回は、企業が環境の変化を超えて成長するための条件である「両利きの経営」について取り上げます。
■強みはいつか無効化される
企業の実力を図る場合や戦略を検討する場合、強み、特に何らかの中核的な組織能力(コア・ケイパビリティ)に注目することが一般的です。たとえば「○○技術力」、「○○開発力」、「○○ソリューション提案力」といった具合です。特に1990年代に「コア・コンピタンス経営」(日本経済新聞社)がベストセラーになって以来、この傾向が強くなりました。
しかしながら、技術変化など環境の不確実性が高まると、単なる自社のコア・ケイパビリティを軸にした経営は限界を迎えることになります。強みと思われていた経営能力が、環境変化によって無効化してしまうからです。
現在の経営戦略論の考え方では、企業がある時点で何らかの優れた組織能力を持っていても不十分であり、組織能力をずらしたり、シフトさせたりすることができないと成長できないという考え方が主流です。この環境に合わせて強みを変化させる組織能力のことを「ダイナミックケイパビリティ」といいます。
■両利きの経営
環境に合わせて強みを変化させるといっても、それは容易なことではありません。そこで参考になるのが、「両利きの経営」の考え方です。これは「既存の分野を深堀しつつ、同時に新しい分野を探索する」というものです。両利きの経営には、次の3つの能力が必要とされます。
① 既存事業を深堀する能力
② 事業機会を探索する能力
③ 以上の異なる能力を併存させる能力
以前より、組織学習論において、組織の探索モードには「問題主導型探索」と「スラック探索」があることが論じられてきました。
簡単にいえば、問題主導型探索とは、目の前に既にある課題や問題を解決するための情報探索・組織学習行動です。課題や問題が解決された時点で情報探索は終わります。これは、平常時に行われる改善活動(低次学習)に相当します。
一方スラック探索は、試行錯誤をしながら、新たな探索をし続ける終わりのない学習活動(高次学習に相当)です。このような探索活動は組織にある程度の余裕や遊び(スラック)がないと行われません。
この2つの探索モードを併存させることが求められるのです。両利きの経営を行うには、次の4つが必須になります。
・組織構造が既存事業の深堀と事業機会の探索を自律的に行う事業ユニットに分かれている。(組織構造)
・探索側が深掘側の資産や能力をレバレッジ(活用)できるよう、特定部分で統合されている。(組織デザイン)
・深掘側と探索側をつなぐ大きなビジョン(存在目的)と明確な戦略意図が存在している。(存在目的・戦略意図)
・深掘側と探索側の間で発生するテンションやコンフリクトを自ら解決するリーダーが存在している。(リーダーシップ)
経営者の強い決意と取り組みの全面的な支援が鍵となります。
(参考文献)
・チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン「両利きの経営」東洋経済新報社
・加藤雅則、チャールズ・A・オライリー、ウリケ・シェーデ「両利きの組織をつくる」英治出版
・桑田耕太郎・田尾雅夫「組織論」有斐閣
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元