【企業経営】オープン&クローズ戦略
DATE22.12.02
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
前回、特許数を増やしても、必ずしも業績に結びつくわけではないということに触れました。今回は、新しい知財戦略であるオープン&クローズ戦略について、ご紹介します。
■特許化しても儲からないのはなぜか?
特許化しても儲からない大きな理由には、製品が普及した頃には特許が切れてしまっていることがあります。
技術開発から製品化までは10年はかかるといわれており、その製品が世界市場で大量普及する兆しが見えるまでにはさらに5年以上はかかるといわれています。一方、特許の有効期間は出願してから20年です。よって、世界市場で普及した頃には、特許が切れかけている状態であり、特許による利益の独占は極めて短期間にとどまってしまうのです。
1990年代末から2000年代初頭にかけて、液晶パネル、リチウム電池、CD-R、DVDプレイヤーなどの分野で日本企業が技術をリードしたにもかかわらず、急激に市場シェアを落としたのはこのことが背景にあります。
■守るところは守り、使わせるところは使わせる
従来の知財戦略の考え方は、「他社の模倣を防ぎ、関連技術の特許化を阻止する」という発想でした。つまり、完全にクローズド(閉鎖的)な発想です。
一方、エレクトロニクス分野*1や情報通信分野といった技術環境や市場環境の不確実性が高い分野で求められるのは、オープン・イノベーションであり、自社に有利なビジネス・エコシステム(多くの企業が協業しながらその産業全体が一体となって発展させていく分業構造)を作り上げることです。
*1エレクトロニクス分野:半導体材料の加工開発やセンサーの活用など、電気電子工学、情報通信、計算機、新材料の領域にまたがった学問・技術分野
そこで参考になるのが、東京大学政策ビジョン研究センターの小川紘一氏が主張するオープン&クローズ戦略*2です。
この戦略では企業の持つ技術の体系を大きくコア領域とその周辺領域に分類します。基幹技術の中で自社に残すコア領域についてはクローズにし、特許など知的財産を集中させることで防衛します。ただし周辺領域については、外部に自由に使わせることで多くのパートナー企業を引き寄せ、製品市場の発展を図ります。
知的財産権の役割は、コア領域を守りつつ、コア領域からオープン領域を自社優位にコントロールするための手段となります。
マイクロソフト、インテル、アドビ、アップル、SAP、グーグル、クアルコムなどの企業は、この戦略で市場を上手くコントロールし、高い収益を上げているといいます。単独で自社製品・サービスをグローバル市場で普及させることが現実的には不可能である以上、自社の技術を特許で囲い込むのではなく、戦略的に硬軟を使いわける(守るところは守り、使わせるところは使わせる)知財戦略が求められています。
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元