【企業経営】企業業績を決めるのは、内部要因か外部要因か?
DATE22.10.06
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
今回は「企業業績を決めるのは、外部要因なのか内部要因なのか」についてご紹介します。
■企業業績を決めるものは?
企業業績の規定要因については、これまで経営学者の実証研究があります。業績要因には、大きく次の4つがあります。
①産業効果
「どの業界にいるか」で決まる業績要因。
②企業効果
「企業それぞれがどのような特性を持ち、どのような戦略を採っているか」で決まる業績要因。
③業界をまたぐことで得られるシナジー効果
多角化することによる事業間の相乗効果。
④その他
マクロ経済環境など上記①から③では「説明できない部分」。
主な調査結果*1は、以下のとおりです。
(1)1991年の調査(カリフォルニア大学ロサンゼルス校ルメルト)
1974年から77年の6,931社を対象に調査したもの。企業間の利益率のバラツキの要因を説明できるのは全体の50%強で、結果は企業効果が46%、産業効果が8%に留まった。
(2)1997年の調査(HBSポーター/トロント大マクガハン)
1985年から91年の米企業約58,000社を基に調査したもの。企業間の利益率のバラツキの要因を約60%説明でき、企業効果が約32%、事業間のシナジー効果が約7%、産業効果が20%となった。
(3)2011年の調査(青学大福井/慶應大牛島)
1998年から2003年までの日本企業を対象としたもの。企業間の利益率のバラツキの要因を約70%弱説明でき、企業効果が約53%、事業間のシナジー効果が約9%、産業効果が5%となった。
(4)2003年の調査(INSEADハワウィニら)
「特に業績の優れた企業」「特に業績が悪い企業」「その他大部分の企業」に分類し、その企業の経営・戦略の善し悪しで業績が決まるのは「特に業績の優れた企業」か「特に業績が悪い企業」であり、業績が中庸な企業は「どの産業にいるか」で決まるという結果を発表した。
調査によって結果は多少異なりますが、統計手法の精緻化やサンプル数を考えると、より新しい調査のほうが妥当性は高いと思われます。おおよそではありますが、「産業効果」は業績に多少影響を与えますが経営努力で克服することは可能であること、多角化によるシナジー効果はそれほど大きくないことが確認されます。
■企業努力に求めすぎている?
以上の調査結果は、おおよそ「企業業績は経営努力次第だ」という事実を裏付けています。しかしながら景気が悪くなれば、当然、企業業績は悪化すると考えるのが自然です。
特に、日本経済は為替レートに大きな影響を受けます(円安なら輸出が増えてプラス)。たとえば、電機業界の企業の売上と円ドル為替レートの相関係数は0.8程度もあり、1円の変動で業界全体で約4,000億円も売上が変わるとも言われています。私の印象では先に挙げた調査結果は、業績要因を企業努力に求めすぎているように思われます。
(3)以外の調査については、米国企業が調査対象の中心です。米国は典型的な内需国で為替要因等の世界経済要因は比較的受けにくいでしょうから、それだけ産業要因や企業要因の比重は高くなるはずです。つまり日本企業の場合と比べ、調査結果にあまり景気要因が反映されていない可能性があります。
また、すべての調査にいえることですが、調査された企業業績の対象期間は長期に渡るため、短期のマクロ経済の変動(好不況や為替変動)は相殺され、調査結果に反映されにくい可能性があります。
以上から、マクロ要因の変動の効果が相殺される長期で捉えた場合や、マクロ経済が安定している場合は、企業業績は企業努力によるところが大きいですが、マクロ要因の変動の効果がより反映される短期で捉えた場合や、マクロ経済が不安定な場合は、企業業績はよりマクロ要因の影響を受けるのではないかというのが私の考えです。
ビジネスパーソンとして経営知識のほかに、是非マクロ経済を見る目も養っていただきたいと思います。
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元
参考文献
*1入山章栄,『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』,日経BP社,2015.