【年金】老齢年金の繰上げと繰下げ、どちらを選択すればいい?
DATE22.03.14
国民年金や厚生年金保険の老齢年金の支給開始年齢は、65歳からが原則ですが、65歳よりも前からもらう繰上げ、66歳以降にもらう繰下げという制度があります。
繰上げをすると年金額の減額があり、繰下げをすると年金額が増額されます。
繰上げと繰下げについては、令和4年4月から大きな制度改正があり、今注目されているところかと思います。
今回のコラムでは、繰上げと繰下げの制度改正の概要をみていきます。
- 繰上げとは
65歳から受給する老齢基礎年金や老齢厚生年金を前倒しでもらうことを繰上げ受給といいます。
繰上げ受給を始める年齢は、60歳以降65歳になるまでの間で、自分の好きなタイミングで決めることができます(支給開始は、繰上げ受給の手続きをした月の翌月分からスタートです)。
繰上げ受給をすると、繰り上げた月数によって減額率が決まります。
減額率については、制度改正が入り、従来は1カ月あたり0.5%でしたが、令和4年4月1日以降に60歳になる方は0.4%に変更されました。
【繰上げ減額率】
・令和4年3月31日までに60歳を迎える方(昭和37年4月1日以前生まれの方)
→繰り上げた月数×0.5%
・令和4年4月1日以降に60歳を迎える方(昭和37年4月2日以降生まれの方)
→繰り上げた月数×0.4%
※年金では誕生日の前日が年齢到達日です。
繰上げ受給をすると、早く年金を受給できるというメリットがある一方、一生涯減額された年金を受給することになります。
また、繰上げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金セットで繰上げしなければならないので、老齢基礎年金だけ繰上げといったような選択もできません。
減額率の変更によって、今後繰上げ受給を検討される方も増えていくのではないかと思います。
ただ、一度繰上げをすると、後から取消しすることもできませんし、障害年金の請求ができなくなることもあります。慎重に判断しましょう。
- 繰下げとは
65歳に受給権が発生する老齢基礎年金や老齢厚生年金を、66歳以降に後ろ倒しでもらうことを繰下げといいます。繰下げの申出をすると、繰り下げた月数によって年金額の増額があります。
【繰下げ増額率】
繰り下げた月数×0.7%
なお、繰下げできる年齢は70歳までが上限とされていましたが、改正により、令和4年4月1日以降に70歳に到達する方(昭和27年4月2日以降生まれの方)については、75歳まで繰り下げることができるようになりました。
70歳まで繰り下げた場合の最大の増額率は42%ですが、改正後、75歳まで繰り下げた場合の増額率は84%となります。
繰下げの手続きをするかどうかは、66歳以後老齢年金をもらうときに、繰下げにするか、65歳から受給開始にするかを決めることができます。
例えば67歳で年金を受給開始しようとした場合
・繰下げにして増額した年金を67歳から受給
・増額なしで65歳にさかのぼって受給(67歳になるまでの2年分の年金は一括受給)
のどちらかを選ぶことができます。
※年金の時効は5年間です。さかのぼって受給できるのは原則5年分となります。
令和5年4月1日からは、70歳到達後に老齢年金を請求する場合、5年前にさかのぼって繰下げをすることができる新制度が創設されます。
これにより、70歳以降に繰下げを行わずに老齢年金をさかのぼって受給することを選択した場合、請求日の5年前に繰下げの申出があったものとみなして、増額された年金を一括で受け取ることができるようになります。
年金額が増えた方が良いから繰下げがいい!と思う方も多いかもしれませんが、加給年金額などの対象となる家族がいる方については慎重な判断が必要です。
繰下げ受給をしても、加給年金額部分については繰り下げた分の増額はありません。
また、繰下げ待機中に加給年金額だけを受給するということもできませんので、単に加給年金額の受給開始が遅れるだけという形になってしまいます。
繰下げは、老齢基礎年金、老齢厚生年金を同時に行う必要はありませんので、たとえば年下の配偶者がいて、その配偶者が加給年金額の対象になる場合、老齢厚生年金は加給年金額がつくため65歳から受給し、老齢基礎年金だけを繰下げ受給にして年金額を増やすという受給方法もあります。
ちなみに、厚生労働省の統計によると、65歳からの本来の支給開始年齢で受給する方は98.5%で、繰上げは0.5%、繰下げは1.0%で、本来の65歳から受給を選択する方が大多数です。
※令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況(厚生労働省)より
よく、長生きするなら繰下げがお得といいますが、自分がどれだけ生きられるかは、なかなかわからないですよね。
ご自身の年金額については、年金事務所で相談することができます。
年金額の試算結果も見せてもらうことができますので、気になる方は、ぜひ一度お近くの年金事務所で相談してみてください。
社会保険労務士
後藤 朱