【企業経営】顧客ニーズは「聞く」のではなく「観察する」
DATE22.01.06
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
「商売の基本は顧客の声を聞くこと」「顧客ニーズを解消することが重要だ」とよくいわれます。もちろん「顧客の声を聞く」ことは大事なのですが、マーケティングリサーチやイノベーションの世界では、「アンケート調査は新たな製品やサービスの開発にあたってはあまり役に立たない」というのが常識になっています。
■顧客ニーズとは何か?
まず、顧客のニーズとは何でしょうか?一般的には「顧客が何らかの形で発する不満や要望」と考えられているようです。ただし、マーケティングでは顧客ニーズを次の3つに分類して捉えます。
①明言されるニーズ
顧客が言葉で説明できるニーズ
②真のニーズ
顧客の言葉そのものでなくても顧客調査で分析したり推測したりできるニーズ
③学習されるニーズ
顧客が言葉として発言できないし、思いついてもいないニーズ
顧客がすでに気がついていて言葉に発することができるニーズだけでなく、存在はするが言葉で表現できないニーズ、潜在的には存在するが気がついていないニーズもあるということです。
■画期的な製品やサービスは顧客の声から生まれたわけではない
高付加価値で競争力のある製品やサービスの開発にあたっては、まだ他社が手がけていないような顧客の真のニーズや学習されるニーズに注目する必要があります。
一方、顧客アンケートで収集できるニーズは、確かに現在の製品・サービスの改良・改善には重要ですが、「もっと安くしてほしい」「もっと営業時間を伸ばして欲しい」「こういった機能やサービスを追加して欲しい」といったありきたりな意見(明言されるニーズ)が多く、高付加価値の製品・サービスにはつながりにくいのです。
かつてのウォークマンやスマ-トフォン、Facebookやツイッターなど画期的な新製品やサービスは、顧客の声を拾ったから生まれたわけではありません。単に「こういったものを作りたい」「こういったものがウケるのでないか」といった開発者の主観的な想いや直勘の産物なのです。
■エスノグラフィー調査で開発のヒントを探る
真のニーズや学習されるニーズを見つけるための方法として、エスノグラフィー調査があります。この調査では、対象者の自宅や活動の現場に出向いて、インタビューと観察によって生活者の価値観や購買動機、製品やサービスの使用方法などを観察します。
たとえばあまり広くないアパートで子供がいる家庭向けに新しい家具を開発しようとしているとしたら、実際に開発者がそのような家庭に訪問して、生活状況や家具の使われ方、その家庭独自の工夫などを観察し、「こういう機能があれば便利なのではないか」「この機能は不要だな」といった開発にあたってのヒントを収集するのです。
花王は、「人々はエイジング(加齢)をどのようにとらえているのか」「なぜアンチエイジングに熱心に取り組むのか」について、5人の属性が異なる対象者の生活現場に密着して調査した結果、「アンチエイジングは改めて自身のアイデンティティーを更新する過程である」ことを明らかにし、その後の商品開発やマーケティングのヒントとしたそうです。
ユーザーは、「この製品(サービス)はこういうものだから」と今の使い勝手が当たり前だと考えています。開発者側がユーザーが気づいていない潜在的なニーズを見つけ、それを解消できるような仕組みを提供できれば、ユーザーにとっては大きな価値になるでしょう。
【参考文献】
恩蔵直人『マーケティングに強くなる』筑摩書房
岩嵜博論『機会発見』英治出版
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元