ごえんをつなぐコラム

警戒する相手への説得のしかた~心理的リアクタンス

DATE21.08.05

皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。

ビジネス上の説得においては、相手は疑心暗鬼で、いいようにいいくるめられるのではないかと身構えます。売り手からの強烈な売り込みに思わず引いてしまった経験は誰でもあると思います。こちらの提案や条件を受け入れてもらうためには、まずは身構えた防御姿勢を解除してもらわなければなりません。その際に気をつけたいのが心理的リアクタンスです。

 

■心理的リアクタンス

心理的リアクタンスとは、心理学者のブレームが提唱したもので、「自由を制限されたり奪われたりすると、自由を回復しようとする心理が働く」というものです。強引に説得しようとすると、相手は選択の自由が脅かされたと感じ、反発を招くことになります。

リアクタンス(抵抗)の大きさは、①その自由が確信されているほど、②その自由が重要であるほど、③自由への影響が大きいほど、大きくなるとされています。

相手が心理的リアクタンスを感じている場合には、「私としてはおススメですが、よくご検討してお決めください」「A案とB案があり、一長一短がありますから、ご自身の事情に合わせて最適なものをお選びください」といったように、相手に選択権があるような言い方が求められます。

心理的リアクタンスは、プライドの高い部下のモチベーション管理でも意識したいところです。彼ら(彼女ら)は往々にして「自分は優秀だから自分の裁量で仕事したい」と思っていますから、彼らに裁量があるような言い方を工夫するということです。

また、人は他人から指示されると、逆のことをやりたくなるといったこともあります。たとえば小さい頃から「お前は必ず医者になれ」と親からいわれ続けたことに反発して他の職業を選ぶといったケースです。このように説得者の意図した方向とは逆の方向に被説得者の意見や態度が変わることを、心理的ブーメラン効果といいます。

ちなみにわたしたちが「現品限り」「限定品」「期間限定」「締切迫る」という言葉に弱いのも心理的リアクタンスのせいです。「購入できる機会が限られている」というと自分の自由な選択が奪われつつあると感じ、何としてでも手に入れようとするのです。

 

■相手の勝利宣言を書く

交渉の理想の姿として、「相手の勝利宣言を書く」というものがあります。

交渉というと、どうしても「自分の利益を最大化するために、相手から利益を奪う」ということを考えがちです。しかし、こうした姿勢では相手の警戒心を招くだけで、交渉がまとまらなかったり、望む利益を得られなかったりします。相手との良好な関係を築くことも難しいでしょう。

「相手に交渉に勝ったと思わせて気持ちよくさせ、うまく譲歩を引き出して利益を得る」ことが交渉のプロだというわけです。説得の場合でも相手側に主導権があると思わせるようにコントロールすることが大事です。

面子にとらわれず、心理的リアクタンスを配慮して、相手に選択権があるかのように演出することが、上手く話をまとめる際のポイントになります。

企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元

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