企業は応募者数よりも定着率にこだわるべき
DATE21.01.18
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。「せっかく採用コストかけて人材を雇い、手間隙かけて育成してもすぐにやめてしまう」そんな企業が多いのではないでしょうか。今回は、RJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)について取り上げます。
■リアリティ・ショック
以前より、新卒者の早期離職に関する指標は、いわゆる「7・5・3問題」(中学新卒者の7割、高卒新卒者の5割、大学新卒者の3割が3年以内に離職する)として認識されてきました。
平成29年に公表された労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)によると、「正社員として初めての勤務先を離職した理由」の上位は、「労働条件・休日・休暇の条件が良くなかったため」「仕事がやりたい仕事とは異なったため」「肉体的・精神的に健康を損なったため」となっています。
新たに職に就いた人が、入社前に抱いていたその企業や職場に対する「理想」と、実際に職場で働きながら経験する「現実」とのギャップに衝撃を受けてしまうことを、リアリティ・ショックといいます。早期離職者は、何らかのリアリティ・ショックを抱えて離職していると考えられます。
■RJP~リアリズムに基づく採用
一方、そもそも会社側が適切な情報を入社前に開示していないということも多いようです。企業のホームページ上の採用欄を見ても、簡単な職務内容や労働条件と、活躍している先輩社員の声(仕事の面白さや職場の魅力が中心)くらいしか公開されていません。まるでバラ色のキャリア人生が待っているかのようです。
現実を踏まえた仕事の様を、その仕事の良いところも、大変なところも、入社前で仕事につく前から、できる限り正確に応募者に伝えることを、RJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)といいます。
従来型の情報提供(魅力中心)とRJP型の情報提供(良い面も悪い面も知らせる)を比較した実験でも、後者の方が離職率が低いという結果が得られています。
■相性がよい人材を雇う
応募者に対して、RJPに沿って仕事の良い面悪い面ともにありのままに見せることで、次のような効果が期待できます。
<ワクチン効果>
まず、過剰期待を事前に緩和し入社後の幻滅感を和らげる効果があります。これは期待のワクチン化と呼ばれます。不安ばかり大きいのも問題ですが、あまりにバラ色の始まりを期待するのも考えものです。
<スクリーニング効果>
自己選択、自己決定を導く効果です。応募を考えている人は、仕事のありのままの姿を知って実際に応募するかどうか自己決定します。採用する側としては、勘違いして応募・入社してくる人をふるいにかけてくれることになります。
<役割明確化効果>
入社する前に入社後の自分の役割や期待されていることをより明確かつ現実的なものにする効果です。RJPでは、入社後に就く仕事の実際の姿をリアルに描くことを重視しているので、いいイメージだけで浮かれて入った人に比べると、自分に期待されている役割についてもより明瞭な認識を抱いているはずです。
<コミットメント効果>
入った組織への愛着や一体化の度合いを高める効果です。「大変なことはわかった。それでも挑戦したい」と自己選択する人のほうが、仕事への達成意欲や組織へのコミットメントが高いと考えられます。
あまり労働条件が良くない職場でも、生き生きと活躍している人はいます。きっと、仕事との相性が良いのでしょう。もっと「辞めない(相性が良い)人材を雇う」という姿勢を重視すべきではないでしょうか。
【参考】
『働くひとのためのキャリア・デザイン』金井壽宏著 PHP研究所
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元