ごえんをつなぐコラム

相続時精算課税制度の「落とし穴」

DATE20.09.24

こんにちは、ファイナンシャル・プランナーの藤原です。

今回のテーマは、「相続時精算課税制度」です。

 

【贈与税は厳しい】

まず確認しておきたいことは、「贈与税は厳しい」ということです。

1年間に取得した贈与財産の合計額に対して贈与税は計算されるのですが、その計算式におけるポイントは以下のとおり。

・基礎控除額110万円(毎年)

・税率10%~55%

すなわち、1年間に取得した贈与財産の合計額が110万円を超えた場合、超えた分には最高55%もの税率が課せられるわけです。

たとえば親から3,000万円もらった場合、なんと1,035.5万円も贈与税が課せられるのです(計算式詳細は割愛)。

なので、贈与税には諸々の特例があるわけですが、その一つが、今回のテーマの「相続時精算課税制度」です。

 

【相続時精算課税制度の効果】

相続時精算課税制度では、通常の贈与税の計算と比べ、その控除額と税率が大きく異なり、以下のとおりとなります。

・特別控除額2,500万円(複数年での累計)

・税率20%(一律)

60歳以上の父母・祖父母から、20歳以上の子・孫への贈与であれば適用可能なので、その適用要件はさほど厳しくはないでしょう。

受贈者が各々、贈与者ごとに選択することになります。

たとえば、父親からの贈与にこの制度を選択した場合、父親から3,000万円もらったときの贈与税額は、たった100万円で済むのです((3,000万円-2,500万円)×20%)。

 

ただし、贈与者が死亡した際には、この制度による贈与財産は、その相続財産に合算され、相続税を計算することになります(すでに支払った贈与税額があれば、それは控除される)。

なので、この制度は、「贈与税・相続税を一体化した課税方法」と言われています。

これには、「贈与税が安くなっても、結局は、相続税の対象になるのか」とガッカリするかもしれません。

しかし、(これは知っている人も多いと思いますが)相続財産が相当な金額でない限り、相続税が課せられるケースは少ないので、それほど気にすることはありません。

 

この制度を適用する際、気にすべき点(落とし穴)は他にあるのです。

 

【通常の課税方法には、戻れない!】

相続時精算課税制度を適用する際、気にすべき点は、「一度、この制度を選択すると、通常の贈与税の課税方法(暦年課税という)には戻れない」、という点です。

 

相続時精算課税制度の特別控除額2,500万円は、(基礎控除額110万円と比べて)一見、とても有利なようですが、これは、適用対象となる贈与者からの「累計」となります。

なので、その贈与額が累計2,500万円に達したら、そこからの贈与には常に20%の税率が課されるのです。

たとえば1年目に1,000万円、2年目に1,000万円、3年目に1,000万円もらったなら、3年目の1,000万円のうち、500万円には20%課せられます。そして、その後の贈与については、常に20%の税率が課せられることになります。

だからと言って、「贈与額が2,500万円に達したから、もう相続時精算課税制度はやめる(通常の課税方法に戻る)」と、都合の良いことはできないのです。

 

通常の贈与税の計算における基礎控除額は110万円と少ないですが、これは「毎年」使えます。

なので、何年にもわたってコツコツ贈与すれば、その非課税額は10年間で1,100万円、20年間で2,200万円、30年間だと3,300万円にもなります。すなわち、長い目で見れば、相続時精算課税制度を使わない方が、非課税となる贈与額は大きくなるわけですね。

 

まとまったお金を一気に贈与する場合などであれば、相続時精算課税制度を使うべきでしょう。

しかし、その贈与目的や贈与者(受贈者)の年齢や健康状態によっては、必ずしも、相続時精算課税制度が有利とは限りません。

繰り返しますが、相続時精算課税制度を選択すると、通常の贈与税の課税方法には戻れません。

2,500万円、一律20%といった数字のインパクトに惑わされることなく、自身の状況をしっかり踏まえた上で、選択したいものですね。

ファイナンシャル・プランナー
藤原 久敏

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