挑戦的な目標を掲げることは、はたして正しいことなのか?
DATE20.09.01
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
今回は、「挑戦的な目標(ストレッチ目標)の条件」について取り上げます。
■ストレッチ目標の功罪
「簡単な目標よりも、現状よりかなり背伸びをしないと実現できないような高い目標(ストレッチ目標)を掲げた方が、企業も人材も成長できる」このことはマネジメントの常識となっています。
しかしながら、大胆な目標というと、私たちは数年前の大手電機メーカーの不正会計問題を思い出さざるをえません。実現困難な目標を現場に強いたことが、不正会計(粉飾会計)を導いたとされます。
ストレッチ目標を実現するには、これまでと異なる方法が求められます。これが社員の挑戦意欲を引き出して新たなブレークスルーを生むというわけです。しかしながら、その一方で、多くの企業でストレッチ目標は失敗し、業績のさらなる低下を招いています。
■ストレッチ目標の設定にあたっての条件
ストレッチ目標を掲げることが悪いわけではありません。ストレッチ目標が有効であるためには、2つの条件があるのです。
1つめは、近年の企業業績です。業績が上り調子で、最近、長年の目標を達成したばかりであれば、新たなストレッチ目標は大いに有効です。理由は、成功体験が社員に好影響を及ぼしているからです。実現が困難と思われる目標に対しても、自信を持って前向きに行動し、良い結果を生む可能性があります。
一方、業績が低迷していれば、社員は自信を失っており、自らの創意工夫よりも安易な解決策に飛びつき、やがて自滅することになります(例:実績データを改ざんする)。
2つめは、組織内でどれくらい使える資源があるかです。ストレッチ目標の実現にあたっては、現状のやり方の否定が求められ、様々なアイデアの試行錯誤が必要で、上手くいくかどうかは極めてリスクが高いです。よって、それを許容できるだけの余裕が必要になります。余裕があれば、失敗しても再起する気持ちにもなります。
一方、余裕がなければ、失敗の許容は許されず、無難ながら往々にして安易な解決策に飛びつくことになり、とてもストレッチ目標の達成には至らないでしょう。
■業績が悪い、あるいは余剰資源がない企業はどうすればよいか?
それでは業績が悪かったり、余剰資源に欠けたりする企業は、どうすればよいでしょうか。
こうした企業はストレッチ目標には適していませんから、それを追い求めるのではなく、「小さな現実的な成功を積み上げる」ことが基本です。小さな成功を積み上げるうちに、組織内で勢いや活力が生まれ、経営資源が蓄積され、学習が促されます。そうなれば、やがて大胆なストレッチ目標に取り組むことができるでしょう。
また、可能であれば、何らかの手段で意識的に余剰資源を積み上げることも考えたほうがよいでしょう。たとえば金融機関からの債務減免、新たな追加融資や、第三者割当増資によって、資金面で余裕が生まれれば、大胆な目標にトライする余地が生まれます。1990年代に深刻な経営不振に陥った日産自動車や、日本航空の例などが挙げられるでしょう。
ストレッチ目標について、最も気をつけなければならないのは、業績が悪く余剰資源もない企業ほど大胆な(無謀な)挑戦をしがちだということです。ダニエル・カーネマン教授らによる研究では、失敗続きの意思決定者ほど大胆な方策を選択しがちであると言います。
業績が悪く余剰資源もない企業が、やけっぱちで大胆なストレッチ目標を掲げるほど馬鹿げた話はなく、かえって死期を早めるだけです。まずは現状を認識し、現実的な対応をとることが肝要です。
【参考】
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2017年9月号「ストレッチ目標で成功する企業 失敗する企業」
企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元