ダイバーシティを実現するための条件は?~やるならかなりの覚悟が必要
DATE20.04.01
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザーの対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
「新しい発想のためにはダイバーシティが重要だ」ということをよく耳にします。今回は「ダイバーシティを実現するための条件」について取り上げます。
■ダイバーシティ経営とは?
ダイバーシティとは「人の多様性」のことで、「女性や外国人などを積極的に活用し、組織の活性化・企業価値の向上を図ること」をダイバーシティ経営と呼んでいます。
「人の多様性」には2つあります。1つめは「実際の業務に必要な能力・経験の多様性」です。たとえば、「その組織のメンバーがいかに多様な教育バックグラウンド、職歴、経験を持っているか(タスク型の人材多様性)」といったことです。
2つめは「性別、国籍、年齢など、その人の「『目に見える』属性についての多様性(デモグラフィー型の人材多様性)」です。
「タスク型の人材多様性」は組織のパフォーマンスにプラスの影響を与えますが、「デモグラフィー型の人材多様性」は、組織パフォーマンスにプラスの影響を与えないどころか、むしろマイナスの効果をもたらすこともあります。
「タスク型の人材多様性」は、組織に多様な知識をもたらし、それが新しいアイデアや知識の源になり、組織の創造力に良い影響をもたらします。
一方、「デモグラフィー型の人材多様性」が拡大すると、性別や国籍などで組織内でグループ化が進み、その間で対立が発生してしまいます。出身が同じ者同士が固まる、男女で隔たりがある、世代ごとにつるむといったことで組織内での溝が生まれるといったことです。
■思いつきのダイバーシティは失敗する
仮にみなさんの会社が、社歴が長いプロパーの10人の男性社員しかいなかったとします。ここで「これまでの考え方にはとらわれないフレッシュな視点を持った人材を新たに雇って会社を活性化しよう」と20代の女性を2人、異業種から採用したとします。
さて、結果はどうなるか? おそらく、新たに採用された2人は、その職場に馴染めず辞めてしまうか、その職場の価値観にすっかり染め上げられてしまうかのどちらかでしょう。結局のところ、新たな人材2人は組織の少数派にすぎず、多数派のプロパー男性社員からの同調圧力に晒されるからです。
■人材を相当シャッフルする覚悟が必要
フォルトライン(組織の断層)理論によれば、真のダイバーシティを進めるのなら、明確な1つの対立軸を作らず、徹底的に多様性を追求することが条件になります。
<悪い例>
10人のメンバーからなる組織があったとして、そのうちの5人が「男性/プロパー/40代」で、残り5人が「女性/中途採用/30代」だったとします。この場合、デモグラフィーがすべて共通する2つのグループに分裂します。「性別・経歴・年齢」で明確な1つの対立軸が存在しますから、対立が深刻化します。
<良い例>
これがもし男女とも、年齢も経歴も人種もバラバラだったとしたらどうなるでしょうか?性別、経歴、年齢、人種と次元が複数になり、境界が曖昧化します。その結果、グループの固定化は避けられることになり、組織内で分け隔てのないコミュニケーションが図られることになります。
つまりかなり思い切った人材のシャッフルをする覚悟がなければ、ダイバーシティ経営は難しいのです。ダイバーシティ経営の例として、アップルやグーグル、フェイスブックなどが挙げられますが、これらの企業には実に様々な人材が働いています。ダイバーシティ経営で組織の創造力を高めるためには「組織内の境界を曖昧化する」というトップの強い決意が不可欠です。
中小企業診断士
三枝 元