兄弟姉妹は、なぜ「相続廃除」できないのか?
DATE20.04.01
はじめまして、ファイナンシャル・プランナーの藤原久敏と申します。
私は資格の学校TACのFPや相続検定の対策講座で、講師を担当させていただいております。
私の担当するコラムでは、そんな私の講師経験から、「えっ、そうだったの?」とよく言われるような、相続に関する意外な盲点・勘違い・落とし穴などについて、分かりやすく書いていければと思っています。どうぞよろしくお願い致します。
さて、第1回目のテーマは「兄弟姉妹は、なぜ「相続廃除」できないのか?」です。
【相続廃除とは?】
相続廃除とは、著しい非行があるような相続人から、相続権を剥奪することです。
もちろん、好き勝手に廃除できるわけでなく、家庭裁判所に廃除の申立てをして、それが認められることで、廃除となります。
ただ、廃除が認められるには、「ちょっと気にくわないから」程度ではダメで、「反社会集団への加入」「遺産目当ての婚姻・養子」など、よほどの理由が必要となるようです。
なので、現実的には、相続廃除に直面することは稀ですが(直面したくもないですしね)、絶対に直面しないとは限りません。いざ、というときのためにも、相続される側としても、相続する側としても、知ってはおきたいしくみですね。
【兄弟姉妹は、「相続廃除」できない】
さて、被相続人の家族関係によっては、その兄弟姉妹が相続人となるケースもあります。
たとえば、被相続人(死亡した人)に子どもがおらず、親もすでに亡くなっている場合、唯一の身内である兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人に配偶者がいる場合には、その配偶者と兄弟姉妹がともに相続人となります。
しかし、相続人となる兄弟姉妹は、相続廃除できないのです。
配偶者や子ども、親については、(家庭裁判所が認めれば)廃除によって相続権を剥奪できるのですが、兄弟姉妹の相続権は剥奪できないのです。
そして、このことを「兄弟姉妹は特別に守られているんだ」と勘違いして理解している人がいるのですが・・・いいえ、違います。
兄弟姉妹を廃除できない理由は、兄弟姉妹には「遺留分」がないからです。
そして、この遺留分こそが、今回コラムのポイントとなります。
【相続廃除できるのは、「遺留分のある」相続人だけ】
遺留分とは、一定範囲の相続人に対して、「最低保証される遺産の取り分」のことです。
その具体的な取り分は、被相続人の家族関係によって異なってきますが、たとえば遺族が「妻と子ども2人」であれば、妻の取り分は「遺産全体の4分の1(※)」となります。
※総体的遺留分1/2×法定相続分1/2
なので、かりに遺言書で「妻の分け前はゼロ」と書いていても、妻は遺留分を主張することで、遺産全体の4分の1を受け取ることができるのです。これはいざというとき、知っていれば、心強い権利ですね。
ところが、兄弟姉妹には、この遺留分がないのです。
遺留分のある一定範囲の相続人とは、「兄弟姉妹以外の相続人」なのです。
なので、兄弟姉妹が相続人となる場合に、「兄弟姉妹には、財産は渡したくない」のであれば、「兄弟姉妹の分け前はゼロ(財産は他の人に与える)」との遺言書を書いておけばよいのです。
そうすれば、兄弟姉妹が「相続人だから、少しは頂戴よ」と言ってきても、(兄弟姉妹には遺留分は認められていないので)1円たりとも、財産を渡す必要はないのです。
そんな理由から、兄弟姉妹は「相続廃除」できないのです。というか、相続廃除をする必要がないわけですね。わざわざ相続廃除の申立てをしなくても、遺言書で「兄弟姉妹の分け前はゼロ」と書けば、遺留分のない兄弟姉妹には、それで事足りるわけですから。
一方で、遺留分のある相続人(兄弟姉妹以外の相続人)については、遺言で「分け前ゼロ」と書いていても、遺留分を主張されると、財産の一定割合は取られてしまいます。
なので、「こいつには、どうしても財産を渡したくない」のであれば、廃除しておく必要があるわけです。相続廃除となれば、遺留分も剥奪されますから。
そんなことから、相続廃除の対象者とは、「遺留分のある」相続人に限られるということなのです。
私の担当回では、こんな感じで、「へぇ、そうだったの」との気づきをきっかけに、相続を少しでも身近に感じていただければ幸いです。
ファイナンシャル・プランナー
藤原久敏