アメリカのCEOの給料はなぜ高いのか?―相対評価という罠
DATE20.03.04
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザーの対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
アメリカ企業の最高経営責任者(CEO)の報酬は、一般労働者の給与の360倍ともいいます。「報酬が高騰したのは、プロ経営者が台頭し、それが新自由主義的な市場経済によって高く(過分に)評価された結果だ」といったような説明がされることが多いです。確かにそのようなことはあるでしょう。しかしながらそれ以上に大きい要因は「相対評価の持つ罠」であるかもしれません。
■報酬公開が逆効果に!?
アメリカにおける平均的なCEOの報酬と平均的な従業員の報酬の格差はゆるやかに拡大を続け、1970年代末で40倍程度であったのが、1980年代末には70倍にまで達しました。
そこで経営幹部の報酬の上昇をおさえるべく、1992年に証券規制当局は各企業に経営幹部の報酬と役得を開示するよう求めたのです。いくら貰っているか開示されれば、経営者は厚かましく法外な報酬を要求しないだろうし、社内の報酬委員会もやすやすと過大な報酬を認めないだろうというわけです。
さて結果はどうなったか?報酬格差はいっきに拡大し、1993年には130倍近くに跳ね上がり、2000年のITバブル期にはなんと300倍にまで達したのです。
■あいつがあんなにもらっているのなら・・・
なぜこのようなことになったのでしょう。実はかなり人間臭い話です。
人間は強い承認(人に自分の価値を認めて欲しいという欲求)があり、他人と比較して自己の価値を評価する傾向があります。さらにほとんどの場合では、自分の価値や能力を過剰に評価する傾向があります(これはプライドの高いCEOに特に顕著であることが研究で確認されています)。
よって「あのCEOがあれくらいもらっているなら、それより価値がある自分はもっともらえるはずだ」と相対評価で「もっともっと」と高い報酬を要求しだしたのです。CEOは莫大なお金が欲しかったわけではなく、ただライバルより自分の価値を認めて欲しかっただけかもしれないということです。
ちなみにプロ野球選手の年棒が1990年代以降に高騰したのも年棒の公開が進んだからだと見ることもできます。
■米国に続けは正しいか?
一方、日本ではどうでしょうか。1億円以上の報酬を得ている役員の人数は600人くらいで、アメリカと比べて報酬はまだまだ少額です。
グローバルに事業を展開する大企業では、高額な報酬で外国人上級管理職を雇い入れるケースは珍しくなくなっています。トヨタ自動車では、ディディエ・ルロワ副社長は豊田章男社長の倍の報酬です。
こうした傾向を受けて、「日本企業でも報酬を高めないと、優秀な人材が確保できないばかりか流出する恐れもある」という声があります。
確かにAIなど高度な専門性を求められる分野については、人材確保のために高額の報酬を用意する必要はあるでしょう。しかしながら、経営陣についてはどうでしょうか。
まず、経営者個人の力量と企業業績との因果関係がはっきりしません。企業業績には個人の経営判断以外にも多くの要因が作用するからです。業績がよかったのは、「前任者の種まきの成果が後任者の時代に現れたから」「景気がよかったから」といった「たまたま」の要素も強いです。世間では業績の原因をやたらとリーダー個人の資質に求める傾向がありますが、単純化しすぎです。また、経営者の報酬が高いほど業績がよいことを示す明確なデータも確認されていません。
高報酬に対する疑問は研究者からも盛んになされているにもかかわらず、単に右倣えの姿勢で臨むことが果たして正しいかはよく考えたほうがよいのではないでしょうか。
中小企業診断士
三枝 元
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