働き方改革はGDPを増やすのか?~経済学的に考える
DATE20.02.04
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザーの対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
巷では働き方改革ということで大騒ぎです。働き方改革に関する書籍や記事を見ると、必ず次のような文言が出てきます。
「日本は少子高齢化が急速に進展しており、労働力人口が減少する中で、働き方改革で1人あたりの生産性を上げなければGDPは減少の一途を辿る」
働き方改革でいわれている同一労働同一賃金、時短、テレワークなど個々の話はいちいちごもっともでおそらく誰も否定しないでしょう。しかしながら、働き方改革を実施してもGDPは増えません。いや、むしろ減少する可能性すらあります。
■GDPは需要サイドで決まる
まずGDP(国内総生産)がどう決まるのかについて説明しましょう。
一国全体の経済には、総需要と総供給(総生産)の2つの面があります。総需要の内訳は国内消費、投資、政府支出、純輸出(輸出-輸入)です。需要が増えれば供給が増え、需要が減れば供給は減るので、GDP(国内総生産)は需要サイドで決まるといってよいです。
■需要が減っているのに生産能力を上げることに意味はあるの?
働き方改革の主な目的は「1人当たりの生産性の向上」ですから、一国全体の供給能力の向上のための取り組みになります。
本コラム執筆時点では昨年10~12月期のGDP速報は発表されていませんが、消費税引き上げに伴い国内消費は大きく落ち込んだことは間違いないでしょう。また世界経済の不透明感、新型コロナウィルスなどの影響で輸出も不振です。需要が減少する中で生産能力を上げてもしかたがないということになります。
総需要の中で比較的旺盛なのが民間の設備投資ですが、内訳を見ると小売、外食、サービスなどの省力化投資が引っ張っている状況です。失業率が低下し人手不足が続く中で、人を雇わないための取り組みを行っているわけです。
さらに残業規制の強化により残業代も減少しますから、日本全体での給与所得総額は減少します。ムダな残業やサービス残業は私も断固反対ですが、実際には残業代を生活給としてあてにしている人は多いでしょう。給与所得総額の減少は消費の低迷につながります。すでに残業代の抑制が消費低迷につながっているという指摘はエコノミストの一部から出ています。
「生産性の向上により余った時間を余暇に廻すので消費が増える」という見方もありますが、所得が増えない(あるいは減る)中で時間があるからといって消費が増えるとはとても思えません。
■景気が良くなれば生産性は自ずと上がる
誤解がないように申し上げますと、私も生産性の向上は必要だと思います。しかしそのアプローチが違うように思います。それでは生産性を上げるためには何が必要なのでしょうか。国レベルでは需要を増やして景気を良くする政策が必要です。企業レベルであれば売上や利益を向上させることです。
経済学には履歴効果という言葉があります。これは「過去や現在の状態が将来の状態を規定する」というものです。不景気なら企業は設備投資をする余裕がありませんから生産性は上がらず、逆に好景気なら生産性は上がります。
注文が多くなれば、それをさばくためにムダなことをやっている余裕はなく、やがて生産性は上がっていくのです。
生産性とは「アウトプット÷インプット」です。どうしても省力化に焦点が当たりがちですが、もっとアウトプットの増加を考えるべきではないでしょうか。
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一般のビジネスパーソンの方が日頃の実務で使うフレームワークを厳選した点が売りです。機会があればお読み頂ければ幸いです。
中小企業診断士
三枝 元